英文の有価証券報告書、「プライム」でも遅れ

本日(2022年1月23日)の日経新聞に表題のような記事が出ていました。今日はこの件に絡めてブログ書きたいと思います。

プライム市場とコーポレートガバナンスコード

企業活動の国際化自体は私が20代の会社員であった30年以上前から言われていました。実際はそれ以前から「世界に日本製品を売ろう」ということで販売活動の国際化が推進されていたのだろうと思います。

今問題になっているのは、企業活動の結果である会計情報及びそれ以外の活動報告である非財務情報を英文で発信することです。具体的なガイドラインは、昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンスコード。プライム市場に上場する企業に対し英文による情報開示が求められるようになりました。

コーポレートガバナンスコードは「comply or explain」なので、義務ではありません。対応しないのであればその理由を説明すればことたります。しかし「時間がない」「翻訳人材がいない」は理由になりません。プライム市場は広く海外も含む投資家を対象とした市場です。「海外投資家に投資されていない」や「海外投資家に投資してもらうつもりはない」も理由になりません。プライム市場を選定した以上ほぼ例外なく対応を迫られる項目です。

ちなみに上記の記事によれば企業の開示書類の中で一番対応がおくれているのが有価証券報告書だそうです。

理由の説明はありませんでしたが、投資家に開示する書類の中では1番遅く開示され(決算期末の3か月後)かつ分量が多いからだと思います。

日英翻訳業務への需要激増へ

業界の数字を確認したわけではありませんが、こうなると日英翻訳への需要が増加することは容易に想像つきます。しかも、一時的な特需ではなくプライム市場の上場企業が安定的もしくは増加的に推移する限り需要が落ち込むことはありません。

外注する企業が増えるほか、中には思い切って社内に翻訳機能を取り込む会社も出てくると思います。そうなると雇用としての増加も見込まれます。

日英翻訳は今がチャンスなのです。

日英の翻訳のすすめ

英語が得意な方でこれからビジネス翻訳を目指そうと思う方は、是非日英翻訳(日本語を英語にする翻訳)を目指してください。需要が増加します。

私は多少なりとも翻訳の勉強をして、少額ながら実際に日英翻訳でお金をもらいました。業界の情報も収集しました。全般的には日英翻訳の方が英日翻訳より難しいとされる傾向があるように思います。英日翻訳をやっている方のコメントで「日英翻訳にチャレンジしたい」というようなコメントがあったりしました。

翻訳単価も英日より日英の方が少し高いようです。翻訳需要に対し供給(翻訳者)が足りてないのです。

英日翻訳より日英翻訳の方が難易度が高いのでしょうか?私は以下の点から日英の方が取り組みやすいと思っています。

  1. 原文が理解できないということがない。
  2. 翻訳の表現の許容範囲が広い。

原文が理解できないということがない

英日翻訳をする場合、Nativeが書いた英文を読まねばなりません。比喩的な表現や聖書の言葉を借用したりと日本人翻訳者の英語知識を超えた表現に出くわすときがあります。その際はあらゆる手を使って調べる必要がありますが、それには相当な時間がかかるはずです。一方日英翻訳の場合原文が日本語なので、日本語の理解に苦労するということはありません。知らない専門用語は調べる必要がありますが、時間はかかりません。

翻訳は①原文の読み込み②他の言語へ変換の作業ですが、①の段階での労力は日英の方がはるかに軽いのです。英日の場合は第一段階でつまづく可能性が高い。もし、英文の理解が間違ってしまったら、いくら日本語として自然な文章を作っても、原文と意味が違ってしまうので翻訳として成立しません。一方、日英なら原文の日本語は完全に理解できます。ですので、多少ぎこちない英文訳になったとしても、意味自体が違ってしまうということはありません。

もちろん、日英翻訳の場合(英日もそうですが)一定レベル以上の英語力が必要なことは論を待ちませんが、英日翻訳は自分が保有する英語能力以上の英文を取り扱う宿命があるのです。日英翻訳は自分の能力の範囲内で英作文をするため、能力以上の英語を取り扱うことはありません。

翻訳の表現の許容範囲が広い

私は英日翻訳で報酬を得た経験はありません。MRI語学教育センターの通信教育を受けたのみです。その範囲の経験でしかありませんが、英日翻訳の日本語訳文は非常にデリケートだと思っています。私の能力の問題かもしれませんが、添削の先生に「ここではそこまでは訳しません」というよな指導を受けたことがあります。私としては、分かりやすくするため単語を補充して訳したのですが、要するに「盛りすぎ」たのです。原文の英語をどこまで日本語に訳し上げるか、その感覚が今でもつかめていません。

添削の先生は日本人ですが、先生自身も英語の原文を読み、それに対応する私の日本語を見てコメントします。ですので、コメントとして「訳不足」「訳し過ぎ」というのが出現します。もちろん日本語として不自然であってはなりません。

一方、日英翻訳の添削の先生はアメリカ人です。彼らは、もっぱら英語そのものを添削対象とし、日本語との対応はチェックしません。原文日本語の把握は日本人翻訳者に任されているのです(実務翻訳の実際もそうだと聞きます)。そのため、英語に訳すときに自由度が広がります。自分が「この英語であれば、日本語で伝えようとしていることが表現できる」と信じる英文を書けばよいのです。英日の場合は、「訳不足」「訳し過ぎ」 と指摘される可能性がありますが、日英ではそんな指摘はされません。そこは信を置いてもらえているのが前提です。

もちろん、一定レベル以上の英語力が前提ですが、必ずしも完璧である必要はありません。具体的には不定冠詞・定冠詞、可算・不可算、単数・複数といった日本人が最も苦手な箇所の間違えは許容してもらえます。

あと、英日の場合納品物は日本語になりますが、日英翻訳の納品物である英語に比べて、表記のルールが細かいです。ルールについて書き始めると長くなるので割愛しますが、私が英日・日英両方の勉強を始めて英日が合わないと思った理由の一つでもあります。

日英翻訳はお勧めだけど、、、

以上、これから翻訳をやるのであれば需要増加や取り組みやすさの面から、英日より日英がおすすめなのですが、一点だけ気に留めておくべきことがあります。

機械翻訳の能力向上です。私は以前いた会社で、部下がDeep-Lを使って訳した英語をみて、その出来栄えの良さにびっくりしたことがあります(今から1年くらい前)。日本語の把握は未だ機械には難しいと言われていた時期が過去あったようですが、あの英訳文を見る限り、ビジネスで使う日本語はほぼ完ぺきに把握できていた印象です。

経済界からの日英翻訳の需要は高まります。これは疑いようのない事実です。日英翻訳者として仕事を取りに行くか、はたまたPost-Editに挑戦してみるかの判断も必要かもしれません。

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