法務省大臣官房司法法制部による「法令翻訳の手引き」を見つけた

投稿者: | 2020年4月12日

MRI語学教育センターの日→英通信講座の課題の中に、日本の法律名を含む文章を英訳するものがありました。

法律名は名詞です。名詞と言えば冠詞。日本語には無い概念なので、日本人が最も苦手な分野の一つです。であると同時に、最もいい加減に扱われている分野だと思います。日本人の感覚としては、冠詞なんて意味上の重要性はなく、a(不定冠詞)だろうがthe(定冠詞)だろうが、ゼロ(無冠詞)だろうが何となく意味は通じるだろうと。まぁ日本人がそう思ってしまうのも当然ですよね。日本語は裸の名詞で意思疎通できるんですから。

当たり前ですが、翻訳でお金を貰おうことを目指している以上そんな態度は許されません。英語Nativeは感覚で理解しているのでしょうが、日本語Nativeとしては辞書を引いたり、文法書を紐解いたり適切な冠詞を選択すべく食らいついていかなければなりません。

今回の課題で法律名の冠詞はどのように扱うべきか確認したくて、Googleで「法律名 冠詞」でWebを検索してみたした。すると、検索結果のトップに法務省大臣官房司法法制部による法令翻訳の手引きというPDFがヒットしました。

法令翻訳の手引き

法令翻訳の手引き

こんなものが世の中にはあるのですね。全然知らなかったです。

この文書の冒頭にその目的が記載されていました。

「法令翻訳の手引き」(以下「手引き」という。)は,これまでの法令翻訳の 品質チェック結果を踏まえ,翻訳の際に注意すべき事項についてとりまとめた ものです。 翻訳を外部委託する際は,「法令用語日英標準対訳辞書」(以下「辞書」とい う。)とともに委託先に必ず交付し,辞書,手引きに準拠した翻訳となるように してください。

「法令翻訳の手引き」より

翻訳の際に注意すべき事項、、、なるほど。法令翻訳する際のガイドラインですね。確かに、ガイドラインにより作法を統一しないと使い勝手が悪くなるのは容易に想像つきます。

ちなみに、検索した目的であった冠詞の取り扱いについても、この文書に説明されていました。表題で用いる場合はtheは付けず、文中で言及する場合はtheが必要だそうです。

法令での冠詞の扱い

これで私の問題も解決しました。めでたしめでたし。

ちなみにこの「法令翻訳の手引き」ですが、全33ページと大した分量ではないですが、いろいろと実務的なガイダンスがあるので幾つか紹介します。

英文中に挿入句を入れる英訳は可能な限り回避し,節が分断されない構造の英文を作る。

法令名に「等」があるとき,英訳では etc. は原則として不要である(しかし,当該府省庁 が正確性から etc.訳出を主張する場合には,あえて削除すべきとの指摘はしない。

① いわゆる「serial comma・Oxford comma(シリアル・カンマ又はオクスフォード・カン マ)」( 3つ以上のものを A, B, and C のように列挙するときの and の前のカンマ)は,必ず つける。 ② 「etc.」の直後には,文法上必要な場合にのみ,カンマを入れる。

「当該」の英訳として”said”や”such”は,legalism ないし legalese であり,plain English が推 奨されている英米の法律文書では積極的に使わない傾向になってきており,避けた方が良 い。

shall は多義的(義務,可能性,権利,未来)であることから,次の場合に特に注意が必要 である。 ① 例えば,「○○しようとする者は,××の許可を得なければならない」という日本語条文 のとき(義務の表現)に,許可を主語にして受身形で翻訳し,”shall be”を使うと,許可権者 の認定・裁量が英訳に現れず,逆に「申請があったら必ず許可しなければならない」という 意味(届出の意味)になり,誤訳となる。 ② shall を定義規定に使うことは誤りである.

「法令翻訳の手引き」より

法令用語日英標準対訳辞書

ところで法令翻訳の手引きの冒頭説明で「法令用語日英標準対訳辞書」という辞書に触れていることに気づいた方もいると思います。私も気になったので、これもGoogleで検索してみました。

すると同名のPDF文書が検索結果の先頭に現われました。ようするに法律用語辞典です。特徴的なのは、法務省が設置した「日本法令外国語訳推進会議」という会議体が編纂したということ。この会議体のメンバーは、大学教授と弁護士のみで構成されていて、残念ながら実務翻訳者の方は含まれていませんでした(笑)。

このPDFによる辞書は法令翻訳の手引きと違い、全302ページとそれなりの分量があります。辞書と銘打っているので、単語レベルの辞書を想像していましたが、フレーズ(慣用表現)レベルのものも結構含まれていました。

例えば以下のとおりです。

以下この…において同じ : hereinafter the same applies in this …

公布の日から起算して…を経過した日 : the day on which … have elapsed from the date of promulgation

推定する : is presumed

するものとする : is to

次の各号の一に該当する者 : a person falling under one of the following items

別段の定めがある場合を除き : unless otherwise provided for

「法令用語日英標準対訳辞書」より

如何でしたでしょうか?法務省も日本の法律を外国にもきちんと理解してもらおうと手を打っているんですね。

外部リンク

 法令翻訳の手引き

 法令用語日英標準対訳辞書

 日本法令外国語訳推進会議

このブログの記事

 衝撃の直訳調‐日本内部監査協会による和訳

 The Economistで和訳練習

 3日で感じた翻訳の難しさ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です